メトロポリタン・オペラ 7/5~7/11
今週のテーマは「リヒャルト・シュトラウス」。
ちょうど「リヒャルト・シュトラウス ホーフマンスタール 往復書簡」を読んでいるところなので、今週の企画は個人的には心躍るものとなりました。
7/05 ばらの騎士
シュトラウスとホーフマンスタールが本格的にコンビを組んで作り上げた最初の作品。発表後、大評判となり、ベルリンと上演地のドレスデンを結ぶ特別列車が仕立てられたほど。作品の舞台となったハプスブルク治政下の貴族の間では、若い独身貴族青年を使者に立て婚約の印の銀のバラを相手方女性に贈るという風習があり、といってもこれはホーフマンスタールの創作であると書簡集の中で言及していますが、結婚をするオックス男爵に頼まれて親族である元帥夫人がいたずら心から、自分の若いつばめを使者にしたところ、この愛人のオクターヴィアンと相手方の女性ゾフィーが恋に落ちてしまい、すったもんだの挙句、男爵の結婚は消滅し、元帥夫人も身を引くという結末を迎えます。最終場面で歌われる元帥夫人、オクターヴィアン、ゾフィーによる三重唱は天国的な美しさ。シュトラウスは自分の葬儀ではこの三重唱を流してほしいと言ったほど。
この公演で元帥夫人を歌うのがニュージーランド出身のキリ・テ・カナワ。かつてオペラに夢中になっていた頃、お気に入りだったソプラノ歌手のひとりで、彼女の元帥夫人をストリーミングで流してくれることを心待ちにしていました。今回、念願かなってやっと見られることになり、楽しみでたまりません。
元帥夫人にさまざまな人々が謁見をする場面があり、そこに新作を披露するテノール歌手が登場しますが、この公演ではそれがなんとあのパヴァロッティ。文部省唱歌の「ふるさと」に似た旋律と相まって注目場面です。
オクターヴィアンを歌うのはいわゆるズボン役といわれるメゾソプラノ。女性なのに男性役で、しかも劇中で女装するという何重にもねじれたところはフィガロの結婚のケルビーノに通ずるところがあります。
オックス男爵役はクルト・モル。
7/06 エレクトラ
ホーフマンスタールと組んだ最初の作品ですが、すでに存在した台本にシュトラウスの求めに応じて手を加えて現在の形となったものです。母親により父親を殺害された娘のエレクトラが、母親とその愛人への復讐を誓っていたところ、行方不明となっていた弟オレストがあらわれ復讐を成し遂げてくれます。エレクトラ役のニーナ・シュテンメが圧倒的。母親役のワルトラウト・マイヤーは、毒母でありながら高貴さも漂わせていてさすがです。
エレクトラが弟オレストに再会した喜びを歌う場面は官能的とも言える美しさです。
7/07 ナクソス島のアリアドネ
モリエールの「町人貴族」を改編して劇中劇の形にしたもの。貴族の館で悲劇と喜劇が行われることになっていましたが、時間がないので両方同時に上演せよとの命が下り、おかしなことになっていくさまをユーモアたっぷりに繰り広げていきます。アリアドネ役のデボラ・ヴォイクトとツェルビネッタ役のナタリー・デセイが聴きどころ。
7/08 カプリッチョ
ホーフマンスタール亡き後、シュトラウス自らが台本を執筆したシュトラウス最後のオペラ作品。詩人と音楽家のふたりから愛を告白された伯爵夫人は、どちらにも決め難く、それは次第にオペラ論に発展していくという、シュトラウスの芸術観が投影された作品となっています。伯爵夫人を歌うルネ・フレミングに注目。
7/09 サロメ
新約聖書を題材にしたものであることと愛の証として首を所望するということが不道徳とされ、各地で上演拒否をされた経歴をもつ作品。台本はオスカー・ワイルドの戯曲によっています。妖艶なサロメの踊りが聴きどころ。
7/10 アラベラ
ホーフマンスタールとシュトラウスコンビニよる最後の作品。破産寸前の退役軍人の娘アラベラは金持ちとの結婚を画策され、そこに男の子として育てられた妹のズデンカが絡み、紆余曲折あって最後はハッピーエンド。アラベラを歌うのがキリ・テ・カナワ。注目度大です。
7/11 ばらの騎士
7/5のものが1982年の公演であるのに対し、こちらは新しい2017年の公演。配役は当然のことながらすべて異なり、元帥夫人がルネ・フレミング、オクターヴィアンがエリーナ・ガランチャ、ゾフィーがエリー・モーリー、オックス男爵がギュンター・グロイスベック、テノール歌手が私のお気に入りのマシュー・ポレンザーニ。オクターヴィアン役のガランチャは美しすぎてどうしても青年に見えない。女装すると女性にしか見えない。ギュンター・グロイスベックは今やオックス歌いとしては飛ぶ鳥を落とす勢いで、下衆でありながら貴族らしさは失わない絶妙な雰囲気を体現しています。
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